それぞれの家庭に合った子育てを 「正しさ」にとらわれない、これからの家族の形
更新日:2026年10月21日
ページ番号:27062618
西宮市政ニュース令和8年11月号特集で掲載した小崎教授へのインタビュー全編を紹介します。
- キャンプなどの子供たちとの関わりを通じて保育士を志す
- 男性の育児休暇取得も第1号
- 市役所を退職し、大学教員へ
- 子育てに不安や負担を感じる親が増加している
- 子育てにおける正解とは
- インターネットや生成AIで「答え」を得られる便利な世の中。でも、その答えって正しいの?
- 子供との距離感を大切に
- 子供を人生のリベンジに使わないで
- 保護者が笑顔でいることの意味
- 親に求められるのは「良い加減(ええ加減)」な視点
- 子育てのハードルを下げて
- 我が家だけのゴールを描く「戦略育児」
- 多様性を認め合う社会に
- 育休は言わば「人生の棚卸し」
- 子供とともに生きていく人生
- 迷ったり困ったりしたときには相談を
- Q&A!どこの家庭でもある!?子育てのモヤモヤ。教えて!小崎教授
- プロフィール
これまでの歩み。西宮で育ち、男性保育士の道へ。そして今、大学教員として子育て支援・父親支援に携わる
キャンプなどの子供たちとの関わりを通じて保育士を志す
小崎教授は、西宮市初の男性保育士として平成3年に採用されました。当時は全国的にもかなり少なかったと思いますが、保育士を志したきっかけは何ですか?
中学生の頃から野外活動やキャンプなどの活動をする中で、子供と関わるのが面白いなと思って、高校に進学するときに「保育者になりたい」と思うようになりました。
ただ、その当時は男性が保育者になるという文化もなく、そもそもなれるかどうかさえ分かりませんでした。そんなとき、たまたまキャンプで知り合った男性の先輩が聖和大学(現関西学院大学)で保育の道に進んでいたので、「男性でもなれるんだ」ということを知りました。当時は「子供と関わるのは学校の先生」というイメージしかなかったですが、先輩の勧めもあり聖和大学に進みました。私は、こばと幼稚園、津門小学校、今津中学校、今津高校、聖和大学と進んだ、まさに「宮っ子」で、大学院の修士課程は武庫川女子大学、博士課程は関西学院大学、さらに最初に勤めたのが西宮市役所ですから、本当に「ザ・西宮」ですね。
当時の大学のクラスは140人中、男性が8人という環境でした。そこで保育者になりたいと思い、4年間実習に行ったりいろんな勉強をしたりしても、「子供と関わりたい」という気持ちは変わらなかったですし、その傍らずっとキャンプ活動も続けていました。
しかし、いざ就職しようとなったとき、私立保育園では受けられるところが本当になかったのです。男女雇用機会均等法が施行される前で、求人が100件出ても男性可は2、3件ほど。残りは性別について何も書かれていない。書かれていないところにも問い合わせましたが、「ロッカーがない」「トイレがない」と…。公立保育所は、当時年齢制限はあったけれど性別の制限はなかったので、受けられるのではと思って、神戸市と西宮市を受験しました。
結果、両市とも合格をいただけました。どっちにしようか迷ったのですが、神戸市は当時すでに十数人も男性保育士がおり、西宮市にはまだいなかったので、第1号というものに憧れて、「よし、行くぞ」と西宮市に決めました。
同期入庁は8人いて、今は多くが所長になっています。ただ、他の7人が保育所勤務だったのに、私だけ障害者支援施設勤務の辞令を受けたのです。「えーっ、すぐ辞めよう、神戸市に行けばよかった」と思いましたね。しかし、そこで知的障害の担当になり、まず利用者の方がすごい一生懸命働いているのを見て、「自分が腐っていてはダメだ」と思い直したのが、私の西宮市での保育士キャリアのスタートでした。
とはいえ、最初は何も分からなかったので、しっかり勉強しようと思いました。当時、勉強するならと市が補助してくれる制度があったので、通信教育で社会福祉士の受験資格を取ったり、職場専念義務免除で関西学院大学の授業に通わせてもらったりしました。社会福祉士の資格を取って、これでうまくいくと思ったのですが、全然うまくいかなくて…。そこで勉強のために武庫川女子大学の夜間大学院の臨床教育に入学しました。大学院を修了すると同時に、当時市内で一番大規模だった瓦木みのり保育園に異動になりました。保育所としての男性保育士第1号となったのが28歳のときです。
男性の育児休暇取得も第1号
西宮で12年間勤務した中で、3回育児休業を取得されています。取得された当時の周囲の様子や反応はいかがでしたか?
3人の子供にそれぞれ3カ月ずつくらい育児休業を取得しました。男性が育休を取れるかどうかもよく分かっていなかったのですが、育児休業法を見ると、男女問わず「労働者」ということだったので、ニュースなどで見て「取れるんだ」と知りました。私は子供が好きで保育者になったのだから、我が子が生まれたら自分の手で育てたいと思ったのです。当時は主たる養育者しか取れなかったので、私か妻のどちらかしか取得できませんでした。
育休取得を職場に伝えたとき、女性の係長からは「頑張りね」と言われました。おそらく西宮市で男性育休取得の第1号だと思います。課長は何も意見せず「はいどうぞ」と(笑)。断ることはできないのでね。後から聞くと「なんで男のくせに仕事を休むんだ」とは言っていたようです。
それも当然のことで、30年前はまだ時代的にも、子供の行事で父親が休むという雰囲気すらありませんでした。保育所では朝礼があるのですが、休んだ次の日は「昨日お休みをいただいてすみませんでした」と謝らなければならない文化もありました。

子供たちとアウトドアを楽しむ小崎教授
市役所を退職し、大学教員へ
12年務めた市役所を退職し、次の活動に移ったきっかけは何だったのでしょうか?
男性保育士というだけで、園児のお散歩に行っても珍しさから指をさされるし、保護者からも「男性の先生ですか?うちの子、男性の先生が苦手なんです」と言われたこともあります。でも、保育はすごく好きだったし、保育所で働いて子供や保護者と関わっていても、男性だからといって嫌な思いをしたことはほぼありません。ただ、大学院の先生から「大学で教員をやらないか」と声を掛けてもらい、すごく悩みました。「保育士はいつでも戻れるけれど、大学の先生というのはやりたいと思ってできるわけではないな」と思い、34歳で心機一転し大学教員になりました。
神戸常盤短期大学の保育者養成部門で、児童福祉や社会福祉を担当しました。社会福祉士の資格もありましたし、保育や障害者施設の実習なども担当しました。私が男性保育士であり育休取得者だったこともあり、父親としての調査や研究をしていたので、父親の育児を支援するNPO法人ファザーリング・ジャパンの立ち上げにも参加しました。
現代の子育てに負担感が増えているのは、正解を求められてしまうから
子育てに不安や負担を感じる親が増加している
市の「子供・子育て支援事業計画」では、子育てに不安や負担を感じる親が増加しているというアンケート結果もあります。小崎教授からみても同じように感じますか?また、その背景には何があるとお考えですか?
さまざまなデータや調査によっては、意外にも幼稚園に預けている保護者の方が保育所に預けている保護者よりも不安度やストレスが高いものもあるんです。子供とゆっくり過ごせるはずの幼稚園の保護者の方がストレスが高いデータがあるというのは、日本社会の大きな特徴です。それだけ社会的な圧力や、正しさを求めていく風潮が強い中で、親自身のストレスが非常に高くなっているのだと思います。
背景には、戦後に都市化が一気に進み、男性が労働力として働く一方で、それを支える専業主婦層が生まれたという日本の特徴があります。「母親が1人で子供を育てる」という形態が、世界で初めて戦後の日本で生まれたと言われています。日本ではそれが当たり前のように思われますが、決してそうではありません。戦後の国の施策として、栄養のあるご飯や温かな家庭という家族愛の像が作られ、子育てをするのは母親・女性という縛りができました。近年は父親も育児に関わるようになってきましたが、母親だけがずっとその負担を担ってきたという歴史があります。
平成10年の厚生労働白書で、日本の子育て支援の第一人者である大日向雅美先生が「3歳児神話は神話である」と発表しました。「3歳までは母親の手で育てないと良い子にならない」という考え方には何の根拠もないと、国が発表したのです。
子育てにおける正解とは
子育てをする中で、親としてはできることなら完璧や正解を求めたいところでもありますが、そもそも子育てに正解や完璧はあるのでしょうか?
子育てに正解や完璧は「ない」ですね。
まず、子供は多様であって一人一人違います。違っていいはずなのに、親がなかなかそれを認めにくかったりします。「人様に迷惑をかけない」ことや「社会的な成功をしてほしい」というストーリーを描いてしまうのです。そうすると「良い学校に入って、良い会社に勤める」という1つの社会的な成功モデルしかイメージできなくなってしまう。それで「成功」や「完璧」というプレッシャーが出てくるのだと思います。保護者に「あなたの正解は何ですか?」と聞いても、なかなか答えは返ってきません。良い学校に入って、良い会社に勤めるのは1つの成功かもしれませんが、それが原因で子供がしんどい思いをすることもあります。
日本の社会は知的障害をIQで測ります。IQ100が普通、IQ70以下が知的障害やグレーゾーンとされて低い方が問題視されます。しかし、「IQ130や150ですごいことができる人たちが社会的な不正を働いたり、ずるいことをして制度をゆがめたりすることの方が大きな問題」と岡田俊先生がおっしゃっているように、人の痛みがわからないことや社会正義を無視することこそ問題なのに、日本の社会はスタンダードモデルにいかに近づけるかばかりを求めてしまいます。
子供は一人一人違っていいのです。知的障害の施設にいたとき、そこで暮らす人たちは本当に「生きる達人」でした。日々楽しく生きていくということが大事なのだと思います。
親が自分の子供を信じ切れなかったり、待てなかったりしてしまうと、余計にしんどくなってしまいます。
2年ほど前まで大阪教育大学附属天王寺小学校の校長をしていましたが、そこで子供たちに将来の夢を聞くと、なぜか「職業」を答える子がすごく多かったです。「お医者さんになりたい」とか。それに対して私は「少しもったいないなぁ」と言い返すんです。職業が将来の夢なのかと。もっと「人と仲良く生きる」とか「人のために尽くす」といった生き方を言ってほしいですし、それは親が自分の生き方を子供に見せていくべきものです。それができていないから、職業を将来の夢と答えてしまうのです。
インターネットや生成AIで「答え」を得られる便利な世の中。でも、その答えって正しいの?
子育て中、分からないことや困ったことに日々直面しますが、インターネットで調べればさまざまな答えが出てきます。最近では生成AIに聞けば何でも答えてくれる便利な世の中ですが、その答えが常に成り立つわけでもありません。こうした状況が親にどんな影響を与えていると思われますか?
迷いますよね。私はさまざまな媒体でコラムや連載を書いたり、書籍の出版やテレビ出演もしていますが、メディアに出ている私から言わせると、メディアに書かれていることは、最大公約数で書かれたものなんです。あくまで個別の事例に対するお悩み相談であって、自分の子供に当てはめたときにそれがそのまま正解だとは限らないし、反対にその情報ではうまくいかない人もいるので、あまり断定して書けないんです。どうしてもフワッとした表現になってしまいます。
今の保護者はインターネットの中に「自分の思う答え」を探しに行きがちです。講演会でも「ネットにこう書いてあったのですが」と相談されることがありますが、「それなら私に聞かなくてもネットで十分ではないですか」と冗談交じりにお伝えすることもあります(笑)。
インターネットの中に幸せはありません。子供は一人一人違うし、同じ子供でも昨日と今日で違います。目の前の子供を見て、一緒に付き合っていけばいいんです。生成AIは「正解っぽい」ものは出してくれますが、責任は取ってくれません。それを参考にするのは良いですが、最後は自分で我が子を見て判断してほしいです。
最近は父親からの質問も多いですよ。講演会でも終わった後にすごい行列ができます。「1歳の息子にどんなもので絵を描かせたらいいですか?」なんて細やかな質問をいただくこともありますが、「何でもいいですよ!自由に楽しく描かせてあげてください」と答えています。20年前に母親たちが悩んだことを、今父親たちがようやく悩み始めています。真剣にやるがゆえに悩むのは必要なプロセスですが、「子供をオリンピックに出したいから今何をしたらいいか」といった極端な質問もあります。父親たちの育児熱が高まるのは良いことですが、インターネットやAIに100%委ねるのではなく、我が子をしっかり見てほしいですね。
親が思うように子育てをすればいいんです。よその子と比べたくなる気持ちも分かりますが、個人差には「個人外差(他者との比較)」と「個人内差(時間軸での成長)」があります。他者と比べる個人外差は誰も幸せになりませんが、時間軸で見る個人内差に目を向ければ、子供は絶対に成長しています。その子なりに生きていけるはずです。環境に振り回されすぎず、子供自身に目を向けてほしいです。

子育てへの熱い思いを語る小崎教授
子供との距離感を大切に
子供を怒るときに、注意すべきことは何ですか?
意外に知られていないのですが、平成29年に児童虐待防止法が改正され、親はしつけと称して体罰をしてはならないという規定が創設されました。令和4年からは民法に定められていた親の「懲戒権」が無くなったのです。それまで親は、子供を懲戒してよかったのです。懲戒といっても体罰とは書かれておらず、お仕置きは良いとされ、門限を制限したりゲームを禁止したりすることは懲戒に含まれていました。しかし、今や法的にその権利すらありません。だからこそ、保護者は子供との距離感や関係性を意識しながら作っていく必要があります。
子供を人生のリベンジに使わないで
子育てにおいて、問題と感じることはありますか?
一部の人ではありますが、問題だなと感じるのは、自分の人生のリベンジを子育てで果たそうとするケースです。自分が英語を話せないからと無理やり英語を習わせたり、自分が望んだ学歴じゃなかったからと子供に学歴を求めたりする。これは良くありません。自分の人生のリベンジを子供にしてはいけないのです。気持ちは分かりますが、「ご自身のお子さんなのだから、そんなに急にできるようになるわけがありませんよ」と少し笑ってもらえるようにお伝えしています。
一方で、子供の育ちにおける遺伝要因を否定する必要はありません。分かりやすく言えば、身長などは約8割が遺伝と言われています。ただ、8割というのは非常に面白くて、どんなに良い遺伝子を持っていても、環境によってはそれが発現しないこともあります。例えば、親の身長が低くても、残りの2割である栄養状態や運動といった環境要因によって、変化する可能性はあるわけです。環境と遺伝が複合的に合わさって子供の成長が起きるということなので、全てを諦める必要もなければ、全てをコントロールできるわけでもありません。そういった意味でも、子育てにおいてバランス感がとても大切だと考えています。
そうは言ってもバランスを取り続けるのは簡単ではないので、母親も父親も本当に悩まれています。だからこそ尊いのだと思います。何も悩まないということは、そもそも意識が向いていないということです。
仕事で悩むことも素晴らしいことですが、子育てにも意識を向けて全てをやろうとするからこそ、悩み、苦しむのです。しかし、それを乗り越えていく中で、子供を育てることを通じて親自身が得られるものがあったり、豊かに生きることができたりすれば、こんなに素敵なことはありません。
最も大切なのは「大人がご機嫌でいること」
「不機嫌は環境破壊」。子供にとって保護者の笑顔はとても大事
せっかくの子育てなので「笑顔で楽しく子育て」したいと思います。親が笑顔でいることが子供にどんな影響を与えるのでしょうか?

子供が描く頭足人の絵
保育者の研修や保護者向け講演会でいつも伝えているのですが、子育てにおいて一番大切なことは「子供と一緒にいる大人がご機嫌でいること」です。子供からすると、一番身近な人が笑顔で柔らかくいてくれて、自分を受け入れてくれることが第一です。
子供の描く絵(例えば頭足人という頭から直接足が生えた絵)を見ても、幼い子供たちは「表情」で人を認識していることが分かります。子供が発達していくと、やがて髪の毛やメガネ、ヒゲなどを描くようになりますが、それも全て「顔」です。だからこそ、大人の柔らかい笑顔や表情がすごく大事なんです。私が活動している「ファザーリング・ジャパン」のミッションは「笑っているお父さんを増やしたい」です。
赤ちゃんが生まれてすぐに見せる笑顔は「生理的微笑」という反射ですが、生後3・4カ月頃になると後天的な学習として本当に笑うようになります。だから私は保育所の研修などで、「赤ちゃんが笑ったら親を褒めてあげてほしい。一番大切なことを最初に教えてくれてありがとう、と伝えてほしい」と言っています。
「不機嫌は環境破壊」という言葉があります。保護者が無表情だったり不機嫌だったりすると、子供にとって表情が読みにくく不安になります。それほど子供の周りの大人の表情は大切なのです。

笑顔あふれる小崎一家
親に求められるのは「良い加減(ええ加減)」な視点
楽しく子育てをしていくためのポイントは何でしょうか?
子供にとって「楽しい」というのはそんなに難しいことではありません。衣食住が満たされて信頼できる人と遊ぶことです。例えばUSJなどに行くのも良いのですが、小さい子供にとって一番楽しいのは近所の公園で親と一緒に走り回ることだったりします。
イギリスの精神分析家ウィニコットの言葉に「Good-enough-mother(十分によい母親・親)」という概念があります。子育てにおいて、他の子と比べて劣っていると感じたりマイナスばかりに目がいきがちですが、子育ては早い者勝ちでも大きい者勝ちでもありません。親に求められるのは、「過不足のない適度な関わり」、つまり「良い加減」。関西弁で言うと、「ええ加減」な視点なのです。
子供には自分自身で育つ力があります。親や保育者がその力を信用しきれず、せき立てたり無理やりさせたりすると、親子ともにしんどくなってしまいます。「ま、いっか」という楽天的な視点を持つことがとても大切です。
親は子育ての素人。だから子育てのハードルを下げて
親も人間なので子育てで失敗することもありますが、失敗や試行錯誤は親子の信頼関係にどう影響すると思いますか?
子育てにそもそも「失敗」はありません。親は基本的に素人ですし、初めての子育て、経験者でもその多くは2回目、3回目なので、うまくいくわけがないんです。我が子の子育てが思い通りにいかないのは当たり前です。保育所では4歳児クラスの場合、保育士1人で子供20人を担当します。私たち夫婦は2人とも保育士なので、本来なら40人の4歳児を育てられるはずなのに、3人の我が子の子育てには何度も悩まされました。専門職であっても我が子の子育ては難しいのですから、初めての子育てでうまくいかないのは当たり前なんです。
試行錯誤があったり、多くの人に助けてもらいながら子育てをしていくことが大切だと思います。
だからこそ、子育てのハードルを下げてください。完璧でなくて良いのです。日本の子育てはハードルが高すぎます。ハードルを下げておけば、うまくいかないときのダメージも少ないし、ちょっとうまくいったときに心から喜べます。赤ちゃんなんてウンチをしただけで「良いウンチが出たね」と褒められるのに、成長するにつれてどんどんハードルが上がっていくのです。まずは親自身が子育てのハードルを下げてほしいです。
我が家だけのゴールを描く「戦略育児」
どこまでやれば子育ては終わるのでしょうか?
よく「子育てはいつまでやるの?」と聞かれます。子供が産まれたら、ある意味で強制スタートですが、ではゴールはどこなのでしょうか。「大学を卒業させるまで」と考えるなら、浪人すればその分ずっと子育てが続くことになります。今は目の前のことに一生懸命になるあまり、先のことやゴールの設定をお互いにできていないことが多いので、そこはぜひ話し合ってほしいなと思います。親として子供とどこまで関わるのか、それは家庭ごとに決めていいと思います。「ここまでサポートするよ」と。ただ、それが子供にちゃんと伝わっているか、納得されているかという問題はあります。
私の考えとしては、子育ては30歳くらいまで続くかなと思っています。しかし、社会の中でそのゴールの設定をしている人はなかなかいません。だからこそ、親子や家族でそれを考えていくことが大切です。私はこれを「戦略育児」と呼んでいます。例えば家を買うときは、さまざまなことを調べますよね。人生で一番大きな買い物は家や車などといわれますが、子供にかける親の情熱や手間、時間、そして愛情を考えると、それに匹敵するほど大切でかけがえのない存在だと思っています。だからこそ良い子育てをしてほしい。それは何かといえば、「親子がともに納得する子育て」なのだと思います。
「あの学校に行きたい」「こんな職業に就きたい」というのも良いですが、「楽しく生きていきたい」「人のために生きていきたい」という思いを大切にしていけたらいいのではないでしょうか。
男性保育士としての経験から
多様性を認め合う社会に
男性保育士としての経験はどのように生きていますか?
西宮市に入庁当初、正規保育士が300人いる中で男性は私1人でしたが、すごく楽しく仕事をさせてもらいました。男性保育士の研究者としても活動してきましたが、一番大事なのは「多様性を保障する存在である」ということです。
かつては「男性も育児ができる」という証左の存在でしたが、今の時代に大事なのは「男女がともに子供を育てるモデル」です。私が育休を取ったときは男性の取得率は0.1%でしたが、現在は国全体の数値目標を超えて50%に達しています。国も「イクメンプロジェクト」から「トモイクプロジェクト」へと名称を変え、次のステージに進んでいます。
現在、私はこども家庭庁の研究班で「父親支援マニュアル」を作成するなど、母親だけでなく父親も含めた子育て支援に取り組んでいます。出産時に困難を抱える母親を「特定妊婦」と呼ぶのに対し、父親側にも支援が必要なケースがあるため、「特定父親」という言葉を作ってサポートしようとしています。ダイバーシティ(多様性)が叫ばれる現代において、「したい人ができる社会」を作っていくことが大切です。
さまざまな家庭背景を持つ子供たちと関わってきた中での気付きとして、経済的な格差だけでなく、子育てに関する「文化的な格差」が非常に顕著に現れています。子育ての仕方は学校ではなかなか教わらないものですが、家庭科の保育領域では「親性準備性教育(次の世代の親や、社会の親を育てる教育)」が行われています。西宮市は子育て支援に力を入れていますが、それは生まれた後の話です。生まれる前から、子供をどう理解し育てるかということを広く社会の中で認識していく必要があります。子供に優しい社会や地域を作っていくためには、こうした教育や理解がとても重要です。
育休は言わば「人生の棚卸し」
これから育児休暇を取得しようと思っている父親に向けてメッセージ
日本の育児休業制度は、取得期間や所得保障において世界の中でも非常に優れています。人生の中で1週間以上まとまった休みを取る機会なんて滅多にありません。育休は言わば「人生の棚卸し」のタイミングです。仕事はもちろん大切ですが、一度立ち止まって家族や自身の生き方を見つめ直す機会にしてほしいです。そして、育休は育児のためにあるのですから、子育てをとことん楽しんで、生活や育児のスキルを身につけてほしいです。育児スキルをつけておくことは、将来の介護などにも必ず役立ちます。「のんびり過ごす休暇」ではなく、大変さに直面しながらも、夫婦でしっかりと育児に向き合う貴重な時間にしてほしいですね。
子供とともに生きていく人生
迷いながら子育てに奮闘している保護者へのメッセージ
迷いや悩みがあるからこそ、子育ては尊いのだと思います。しんどいだけでも楽しいだけでもない。ぜひその両方を味わってほしいです。パパがおいしいところだけを取るのではなく、大変さも楽しさも夫婦で一緒に味わってほしいですね。子供はすぐに大きくなってしまいますから。
講演会などで保護者の皆さんに、「もしも、1億円積まれたら、大切なお子さんと交換しますか?」と問いかけることがあります。もちろん笑い話ですが、皆さん首を横に振られます。それほど子供というのは何物にも代えがたい存在なんですよね。もう子供のいない生活なんか考えられないわけですよ。でもそれって、「子供はお金ではなくて本当に何物にも代えがたいものである」ってことですよ。日常にあると「腹立つわ」とか思うこともいっぱいあるけど、それはやっぱりすごい素敵な宝物であって、この授かった宝物とともに生きていける人生は決して悪いもんではないんじゃないかなと感じてほしいですね。
「受援力」の大切さ
迷ったり困ったりしたときには相談を
子育ての中で迷ったり困ったりしたときに、相談することは重要性でしょうか?
子育てにおいて「受援力(援助を受ける力)」はとても大切です。子育ては親だけでできるものではありません。「ワンオペ」や「無理ゲー」といわれるように、最初から完璧にやろうとするのは無理があります。だからこそ、誰かに頼ったり相談したりする力が必要です。
インターネットや生成AIも便利ですが、やはり人間対人間の直接的な関わりが大切です。西宮市には、子育て支援の窓口や相談できる場所
がたくさんあるので、あまり気負わず、気軽な気持ちで遊びに行ったり、利用できるサービスをどんどん使って、自分に合うものを見付けられたらいいと思います。子育てを通じて親自身の社会も広げていってほしいと思います。
どこの家庭でもある!?子育てのモヤモヤ。教えて!小崎教授
子育てをしていると、「これでいいのかな」「どうしてうまくいかないんだろう」と、次々にモヤモヤや悩みが湧いてくるものです。
そんな日頃よくある子育ての疑問について、小崎教授にアドバイスをいただきました。
まず「諦める」ことです。親はどうしても子供に負けたくないと思ってしまうものです。「子供を自分の思い通りにコントロールしたい」という気持ちはごく自然なものですが、、嫌なものは嫌なのです。子供が全力で嫌がるなら、子供に変わることを求めるのではなく、やりたくなるように環境を変えるなど、親が変わる視点を持ちましょう。
対立が起きてストレスでカッとなってしまうのは、子供に対する見方や捉え方が固定化してしまっているからなんです。子供の見方を少し柔軟に変えていくことが大切ですよ。
100%の自由な時間なんて持てなくて当然です。大切なのは「緩急」。一時預かりやファミサポなどの行政サービス
やベビーシッターを活用しながら、1週間のうちに少しでも自分のための時間を作れるよう、生活設計をしていけばいいんです。昔は子供を預けて遊びに行くことに対して風当たりが強い時代もありましたが、今は違います。行政のサービスなどを使ってリフレッシュしていいんです。夫婦で分担し、リフレッシュして子供といい関係で過ごすための時間を自分でデザインしていきましょう。
そうやってお父さんやお母さんがしっかり息抜きをして、家に戻ったときに子供とまた良い関係で過ごせるなら、それが一番大切です。行政もさまざまなメニューを用意していますので、ぜひ上手に頼ってください。
講演会でもよく「まず怒らないようにしましょう」とお話しするのですが、そもそも「怒る前提」で構えてしまっていませんか?「その悪いことって、一体誰にとって悪いことなんだろう?」と立ち止まってみたり、できるだけ怒らなくていい環境を作っていくことが大切です。どうしても叱らなければならないときは、「短くする」「人格を攻撃しない」など、叱り方のルールを自分で決めて意識することが重要です。子供を叱ろうと思えば永遠に叱れてしまい、結局何を言っているのか分からなくなってしまいますからね。
「寝ない・食べない」は子育ての2大悩みです。その一部分だけに注目してもうまくいきません。生活全般をトータルで見ることが大切です。食事の最大のスパイスは空腹。おやつの時間など日常生活全体を見直してみましょう。寝ない子も、単純にまだ眠くないだけなんです。子供によって味覚やメニューへのこだわりもありますから、少しの工夫は必要ですが、あまりそれが自分のプレッシャーやストレスにならない方がいいですよ。食べないなら「うちの子はこれが苦手なんだな」と受け止め、親のプレッシャーやストレスにしないことが一番です。
この先は介護など人生のライフステージが変わるたびに、こうした悩みは常に付きまといます。だからこそ「自分たちがどういうふうに暮らしていきたいか」というワークライフバランスを意識していくことが大切です。
漠然とした不安をそのままにせず、「時間なのか、お金なのか、システムやサービスなのか」と、具体的に何に困っているのかを明確にすることです。これからは仕事以外の生き方も多様化しています。夫婦でしっかりと話し合い、自分らのライフデザインを描いていくことが大切です。
シンプルに「夫婦で話す文化がない」ということです。共に働き、共に育てていく「トモイク(旧イクメンプロジェクト)」の時代、対等なパートナーシップとしてしっかり話し合う機会を作ることが大切です。子供が少し大きくなれば、それは「夫婦会議」から「家族会議」になっていきます。
日本の夫婦や家族は、驚くほど会話が足りていません。職場であれだけ会議をしているのに、家庭ではないんですよね。これを文化として取り入れていってほしいです。お互いに疲れてすれ違う前に、「夫婦会議」の時間を意識的に持つことから始めましょう。本気で悩んでいることやしんどさが伝わるように工夫してみてください。先はまだまだ長いですからね!
自分がイライラしていると気付くこと自体が、素晴らしい感情コントロールの第一歩です。イライラをためこんで後で爆発させるのではなく、今の気持ちを自覚し、周りの人に伝えたり上手に発散したりして、ストレスと付き合っていきましょう。
反対に「全然イライラしない」という人は、ストレスを抑圧しすぎてある日突然大爆発することがあるので、適度に気持ちを表に出したり、自分なりのストレス発散法を見つけたりしてくださいね。
「諦める」ことです(笑)。
同じ注意を何度も繰り返してしまうのは、子供の耳に届いていないし、子供もその意味を分かっていないからです。大人が一方的に言い続けることに、子供が慣れてしまっている(麻痺している)状態なんですね。
何度言っても聞かないなら、同じ注意を繰り返さなくて済むように環境を変えましょう。子供に変わることを望むより、大人の関わり方を変える工夫をしてみてください。
そもそも「同じことを注意する」ということは、またそれが起きることが分かっているわけですから、「それが起きないような環境(環境構成)」を先に作ってあげる方がお互いにストレスがなくて楽ですよ。子供と一緒に考えてみるのもおすすめです。
プロフィール
大阪教育大学教育学部学校教育教員養成課程家政教育部門(保育学)教授
小崎恭弘(こざきやすひろ)さん

小崎教授
経歴
昭和43(1968)年:兵庫県西宮市生まれ
平成9(1997)年:武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科修了
平成21(2009)年:関西学院大学大学院人間福祉研究科後期博士課程満期退学
平成3(1991)年:西宮市役所初の男性保母として採用・市役所退職後、神戸常盤大学を経て、現職。
令和4(2022)年から5(2023)年:大阪教育大学附属天王寺小学校長(2022年から2023年)
資格:保育士、幼稚園教諭、社会福祉士
専門:保育学、児童福祉、子育て支援、父親支援
著書
「育児父さんの成長日誌」朝日新聞社。「男性保育士物語」ミネルヴァ書房。「家族支援論」相川書房。「ワークライフバランス入門」ミネルヴァ書房。「パパぢから検定」小学館。「パパルール」合同出版。「わが家の子育てパパしだい」「きょうだいの育て方」「お母さんのためのくじけない男の子の育て方」「思春期男子の育て方」「家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援:少子化対策の切り札(別冊発達)」など著書多数。
2014年10月に出版した「男の子の本当に響く叱り方・ほめ方」(すばる舎)が、子育て関係本として8.9万部の大ヒット。Amazonランキングで一時2位になる。その後次々と「男の子本」を出版し、ヒットを続ける。
